「山の日」に徳仁来る

新型コロナの影響が拡大して、長野県が「信州の観光はお休みです」というポスターを都内に貼っていた。また登山口には、「入山を自粛してください」という呼びかけとともに、「ほとんどの山小屋・テント場は今、営業していません」「感染予防対策を行うため、すぐに救助に行かれません」という掲示が出された。


長野県は「世界級のリゾート 山の信州」として売り出している。コロナへの対応を見ると、長野県が「世界級のリゾート」としては明らかに落第。開店前の店だって「準備中」くらい書くのに、「迷惑」「遭難しても助けてやらない」というリゾート地は嫌なところだ。無視して山梨県側から山に入ったのは言うまでもない。


その長野県の上高地で、第一回全国大会の記念式典が開かれたのは2016年のこと。毎日「~~の日」という記念日があるので、「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」という山の日があってもいいとは思うけど、なぜそれが休日なのかいまだにわからない。


この記念日ができる前、山の雑誌で記念日制定を目指す会議を取材したことがある。そのときいっしょに行った編集部の人が「あの人たち、あのままだと本気でやっちゃうよ」と言っていたのを覚えている。ほんとに休日になった。山ヤとしては「そんなに山が好きなら仕事さぼって山行け」と思う。


この年、ぼくは大鹿村に引っ越し、年内に予定された南アルプストンネルの工事の開始をにらんで緊張していた。そんなときに、休日に登山口に集まって、「山はいいなあ」とか山ヤが言ってる場合か? ちなみに記念日の盛り上げ役の「全国山の日協議会」の特別賛助会員には、南アルプス破壊企業のJR東海が入っている。


この第一回大会の記念式典に、徳仁が雅子と愛子といっしょにやってきた。この一家の参加は当時の新聞とかを見ると「公務」とされていて、式典であいさつもしているのだけど、大会の役職とかにはついていない。


上高地は1969年以来49年ぶり。夏休みで参加できたという愛子の訪問は初。上高地を散策し、どうも本人たちの感覚だと趣味の延長での「サービス」感覚な気がする。翌年からの式典には参加していなくて、皇室行事として定着しているようにも思えない。


翌日の信濃毎日新聞に徳仁のあいさつ全文が出ていて、「私自身、山に登り始めて50年ほどになりますが、山に登るたびに新しい発見や新たに学ぶことがあり、山の魅力は尽きることがありません」という。そうだと思うけど、だからどうしたふうの挨拶を読むと、サービスだったら、もうちょっと気の利いたこと言えないのかと思う。


49年前の上高地訪問では、乗鞍高原も訪問し、当時休んだ山小屋の方が「皇太子さまは絶えず気を使うお立場。いつでも気を休めに来ていただきたい」とコメントしている。絶えず気を使っているのは本人じゃないと思うよ。

(2020.6.30「府中萬歩記」76号)