リニア説明会を開け JR東海の録画禁止に抗議

JR東海古谷部長

 2012年にリニア新幹線の工事現場予定地の南アルプス山麓、大鹿村を訪問した。度々登山の雑誌で進行状況を紹介したが、数年の間、リニア新幹線について継続的に取り組むジャーナリストは、ぼくともう一人しかいなかった。

 あれよあれよという間に環境影響評価の手続きがすみ、2014年には国土交通省は着工を認可し、2027年の開業予定で工事が始まった。総工費は東京(品川)―名古屋間だけで5・5兆円。今世論を分断している辺野古の埋め立ての当初費用が2400億円だからその約30倍だと言えば、その規模と影響の大きさが想像できるだろうか。

もちろんゼネコン不正に至るまで、リニアの問題が世間に伝わらなかったのには、ぼくたちの努力不足という以外に仕掛けもある。建設主体のJR東海は、アセスの過程で一カ所につき最低3回程度の説明会を沿線各地で行っている。その後も着工前に工事説明会を開催する。杜撰な計画で当初なかった工事の変更がなされても、実際はアセスの説明会はなく、都心部の予定地では地下40m以上の大深度のため、上に家があっても説明はない。

 しかもこの説明会の仕方がひどい。

質問は3問までに制限し一度に行なう、再質問は許さない、決められた時間が来れば手を挙げている人がいても説明会を終える、借り受けた公共施設の入口に禁止事項を列挙した紙を貼り出す、関係者以外は出席させず住民が呼んだ人であっても会場に入れない、メディア以外の住民による撮影をさせない、わずか数枚の配布資料よりはるかに多い数十枚の画像が説明時に投影され、メモ代わりの画像の撮影すら禁止する……大鹿村の住民になって頭に来るのが、会場に行かないと説明すらしないことだ。住民なのに情報の入手も制限付き。中部電力はアセスの資料を各戸配布するが、JR東海にやる気はない。

 こういった「情報統制」に対して、メディアの録画は冒頭のみ。各自治体の連絡協議会などはメディアには非公開なところが多い。それで住民が疑問をぶつけたり、場が荒れたりしても、終了後にJR東海の部長がメディアの囲み取材に、「理解が深まった」と回答して工事が進む。言っても聞いてもらえないし、言ったところでメディアは伝えない、となって住民の孤立感は大きく、しんどさは解消されない。

 その上、リニアの実情を記者として伝えると、「ご説明」と称してJR東海の広報が雑誌の編集部に押しかけ、「一方的」と何度でも編集部とのやり取りを求める。値を上げて雑誌がリニア問題を取りあげなくなる。こうやって原発同様「安全神話」が維持されてきた。しかし、大手の記者たちに「報道の自由」を守ろうとする緊張感はない。住民が会場で「そもそもリニアは必要なのか」と問うと、「それをここで聞かないでください」とJRの担当者が答える。しかし、そんな問いはどこでも議論されてこなかった。国家的なプロジェクトである以上、地域の問題を地域だけが背負うのは荷が重い。

 そんなわけで、住民団体個人、それにジャーナリストに呼びかけて、1月の大鹿村での説明会を前に緊急に呼びかけ、共同声明として発表し、関係自治体や記者クラブに申し入れた。最終的に34団体、63個人が賛同してくれた。大鹿村の説明会では、住民としてぼくが公開の仕方に冒頭異議を唱え、フリーランスの記者を中心に、いっしょに抗議してくれた。

こういった措置を大鹿村もJR東海も、「出席者の自由な発言を妨げるため」という理由で正当化している。そこで取材を控える時間枠やコーナーを用意したり、発言者が録画の諾否を発言できることを司会が冒頭アナウンスしたりするよう事前に主催者に提案したが、村もJRも拒否した。もともとそれが目的ではないからだ。そもそも冒頭録画しているので途中の録画を禁じても意味がない。実際、静岡の専門家による委員会は、静岡県の措置で全部公開している。こういったやり取りが公開でなされたこと自体、反撃の意味があった。

 とはいえ、当日録画禁止の措置を解除できたわけではない。それでも今回の取り組みで得られた賛同の輪は価値がある。住民もジャーナリストもどちらも、問題を広く知ってもらい、多くの人を議論に引きずり込む意志がなければ、現状は打破できないからだ。説明会は今後もあるだろう。より多くの人の賛同を得られるようこの取り組みを持続したい。(宗像充、大鹿の十年先を変える会)

(反天皇制運動Alert34、2014.4.9)

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