「面会交流事件で却下されるのは1.7%」?
10月13日に東京新聞の「人生のページ」に「親子の面会交流 共同親権で解決なるか?」というエッセイを書いた。いろいろな反響が新聞社のほうに寄せられているようで、掲載後に事実確認についていくつか新聞社から問い合わせがあった。
その中で「日本で司法に訴えても面会交流の約束を取り付けられるのは5割」と書いたところ、根拠を求められた。読者が憲法学者の木村草太は、家裁における面会交流の申し立ては1万件で会えない割合は1.4%と言っているという。
探すと2024年5月7日の参議院法務委員会の参考人質疑で、「例えば令和2年に終結した面会交流事件は1万件ありますけれども、うち却下されたケースは1.7%にとどまるということで、面会交流の申し立てを利用していただくのがよろしいのではないか」いう発言があった(議事録文字起こしhttps://note.com/nao302198765/n/n158468981cad)。
国民民主党の河合孝典参議院議員の「会いたいのに会わせてもらえないというところをどのように見極めていくのかということですね」という問題提起に答えたものだ。木村は似たような発言を繰り返しているわけだ。
木村は法制審議会における参考資料として最高裁判所が提出したものを典拠としているようだ(「子の監護に関する処分事件の事件動向について」https://www.moj.go.jp/content/001347793.pdf)。
この資料の3-(2)に、「子の監護に関する処分事件(面会交流)・終局区分割合(全家庭裁判所)」との折れ線グラフとその区分別件数の数字が出ており、その最新の令和2年(2020年)の数字が1.7%となっている。
木村は面会交流を申し立てれば司法で会えるようになるのだから、現在会えていないぼくのような人間は問題があるからだという主張をSNS等で繰り返している。1.7%はその根拠で読者もそれをうのみにしたのだろう(数字は不正確だが)。
98.3%は会えているのか? 半分が諦めている
木村があげる「却下された割合」1.7%は僅少なので、会えないのは相当問題のある人達と思うだろう。ところが、同じ統計から数字を拾えば、調停の成立率は57.8%で、審判の認容率は65.2%にとどまる。残りは調停不成立や取下げとなる。そして法制審の資料には審判の割合も出ていて、この年は9.1%となっている。
最高裁もズルいと思うけど、審判は調停・審判の1割に満たないのに、その1割に満たない審判での却下の件数を、調停・審判合わせた総数で割ったところで低く見積もられるのは当たり前だ。この統計には調停不成立の数字も外されており、司法統計を見ると2711件ある(法制審の資料は速報値のためズレがある)。司法統計の既済の総数は調停11619件、審判1619件で13238件(法制審資料だと10776件)。司法統計による割合は20.5%。取下げは27.2%。
根拠数字のズレはあるものの、総数のうち不成立・取下げ・却下の割合を合わせれば実に49.4%が面会交流を諦めるか認められていない。
木村が「別居親は問題がある」と言うために悪意で数字を切り取るにしても、素人をだますにしてはやりすぎだろう。
取り決め率は47.3%
総数は何年も継続しているものも含むので、その年の新受件数のうちの調停成立・認容の割合を「取り決め率」とぼくは呼んでいる。過去棚瀬孝雄弁護士が用いていたので独自のものではない。正確に言えばその年申し立てたものがその年のうちに処理されとは限らないけど、過去申し立てたものも順繰りに処理されるのでだいたいの目安になる。この数字は過去10年以上、司法統計で追い続けている。
法制審の資料で見れば、令和2年は新受は調停で12929件、審判で1939件、合わせて14868件。審判認容は804件、調停成立は6227件、合わせて7031件。
7031件/14868件=47.28%。およそ半分になる。
取り決めても3割は会えなくなる
この取り決め率を、毎年司法統計から数字を拾い出して折れ線グラフを作っている(https://k-kokubai.hp.peraichi.com/「誤解その3」)。取り決め率の推移がわかるようになっていて、件数は年々増加しているのの、この割合は約半分で一定している。
面会交流調停については、多くの場合、連れ去られて会えなくなったので申し立てるので、この割合の増加は連れ去り件数の増加と大方一致するだろう(離婚事件おける面会交流がどのように扱われているかはこの中に入っていない)。
つまり、裁判所が面会を拒否してくれるのが見えるので、連れ去り件数も増加し、被害者は他に手段がないので司法に頼って「約束を取り付けられてるのは5割。それも会える保障はない」。
言うまでもなくこれは取り決めの割合で、この中には「会わない」「手紙のやり取り」などの取り決めもある。子育て改革のための共同親権プロジェクトによれば、合意がある場合であっても、子どもとは32.7%が会えなくなっているという調査結果がある(http://cdn.joint-custody.org/files/20220808-report-lbp-summary.pdf)。
家裁が月に1回2時間、写真送付などの間接交流を多く面会交流として取り決める現状で、そうなるのは当たり前である。
この資料は司法記者クラブで記者発表したものだけど、立ち見も出た中、一社も記事にしなかった。(2024.10.18)