久しぶりにJR東海が開いた工事説明会が6月3日、4日にあった。その2日目の4日の説明会で、手を挙げてJR東海のリニア建設の担当部長、古谷佳久さんに聞いてみた。
JR東海は今年3月、2027年開業予定を正式に取り下げた。長らくJR東海はリニア工事の遅れを静岡県のせいにしてきて、マスコミもその主張に同調してきた。
そんなとき、静岡県の川勝平太知事が自分の失言で知事職を続けられなくなった。JRとしてはリニア工事阻止のシンボルを表舞台から引きずり下ろすことができた。一方で、工事の遅れを静岡県のせいにするという作戦が大手メディアともども使えなくなり、前からわかっていた工事全般の遅れを公表せざるをえなくなった。「いいものが来るんだから」と完成を前提に協力を強い、生活被害を我慢させてきた沿線自治体の首長たちも、JRに住民に対して工期を示すように求めてきたので、この日の説明会に至った。
表題の質問は、2日目の説明会でしたものだ。2日間説明会があったのは、有害残土(JRは「要対策土」と呼ぶ)を置いてその上に変電施設を作る計画を、関連自治会向けにJR東海がすることにしたからで、1日目は大河原地区の住民向けの説明会だった。説明会の後半では村内のリニア工事の遅れとその工期の設定をした。JRは3~4年の工期の遅れを地図に進捗状況を落とした工程図を示しながら表明している。この日は住民が意見を言えるようにとマスコミは入れなかった。
2日目の説明会は、村民全体を対象に説明会を実施して、説明の順番は工期の遅れと工期の説明が前半、後半が有害残土の設置計画の順番になっていた。JRが工期の遅れを静岡県以外で正式に表明する機会なため、マスコミの取材要請が殺到し、この日JRは一社1人の入場制限を課し、フリーランスについては断っている。といっても、名前を書かされるわけでもないので、記者も村外の人も住民席に入って聞いていた。だいたい住民席の後ろ側は業者が多く占めているので席は余っている。
記者の制限は今回が初めてだけど、撮影は冒頭のみという制約には、住民として長らく抗議してきた。というのも、実際、報道されて困るのは質問にまともな根拠がなく答えられないJRの側だからだ。
冒頭の質問は、ぼくが1日目の資料を見て計算しなおしたところ、工期は3~4年の遅れではなくて、実際には2035年になり遅れはざっと9年になることを示した後にしたものだ。
「もともと難しいのわかってたんだから、遅れた時点で事業としては失敗です」
JRが示したデータをもとにぼくが計算しなおした工期を説明した後に、JRに問うた。もともと2027年開業なんて、死んだ会長の葛西の願望か、名古屋までの開業後にいったん工事を中止し、大阪までの開業への資金をためる期間を設ける、というJR都合の予算スケジュールに合わせたもの以外の説明ができない。
「2027年開業って何か根拠があったんですか?」という質問に報道席からちょっとどよめきがあった。そんな質問記者がしとけよ、と思う。
ところで、工期のスケジュールがJRの予想では全然あまあまだという質問へのJRの回答は、ぼくが出した月進50m程度という計算式を肯定していた。その上で、これまでは災害による道路の不通や残土置き場の確保、それに掘削に手こずったなどの理由で遅れた。今後はそれらについてクリアできるからもっと早く進むので大丈夫という、まったく根拠のないものだった。
説明会終了後に大鹿村の交流センターの玄関を出ると、記者とカメラに取り囲まれた。日頃は全然村に来ないくせに現金な連中だとは思うけど、自分も同業者なので断ったりしない。「JRは今後は工事がスムーズに進むと言っていますが」とやり取りについての質問があったので、「これまでトラブル続きだったから、今後もトラブル続きと考えるのが普通じゃないでしょうか」と答えたら、NHKでコメントが使われていた。
この日からさらにJR工事の説明会を受ける機会は6月中に2回あった。1回は村長以下、役場の理事者が地区ごとにやってくる住民懇談会での村からの説明。もう1回は定例議会後に開かれる村のリニア連絡協議会での県や業者も含めた工事の説明。
ぼくにはこの4月から上蔵地区の自治会長の役が回ってきていたので、懇談会の日程調整や協議会での自治会代表委員として出席を求められたのだ。一方で、JRが主催した最初の住民説明会では、有害残土の恒久処分がなされる当該自治会の自治会長であるにもかかわらず、事前に自治会への日程調整や趣旨説明が何もなかった。
この点について1日目の説明会で、「上蔵の人は子どもじゃないんだから、自分たちのことは自分たちで決められますよ」と怒って言ったら、「家に行ったけど不在だったからこちらで全戸配布をした」という。2日目でも白々しく同じ説明をするので、「そういうことじゃなくてどういう説明の仕方を受けるかを決めるのはこっちのほうという意味だよ」と念を押した。
JRとはこういうやり取りが多すぎる。リニアに賛成の人もJRの態度に怒ってしまう。これも工事が進まない原因の一つだ。ちなみにJRは説明会の案内では、「変電所の建設説明会」と示して、「要対策土」という言葉すら記載していなかった。その上2日目の説明会の時間も場所も書いていなくて、それについて突っ込む質問まであった。
その一方で、ぼくが発言して再質問して3度目になると、司会は賛成派の住民を指名してしばらく嫌がらせでぼくを指名しないという作戦を実行。その住民は、リニアのおかげで道がよくなったと言い、「そういう質問は後で個人的にやってくれ」と注文を付けるといういつものお芝居も見ものだった。
再度指名されたときに、「今日はJRがみんなの意見を聞く会なんでしょう。みんなにもかかわるものだから質問をしている。そんなこと言われたらみんな自分の意見言えなくなるでしょう」と言い返した。
それでも説明会は2日ともJRにとってみれば厳しい意見が出たし、日頃おとなしいと評判の村民が出席して、ダンプの往来についての窮状を切々と訴える場面もあった。
終了後に記者たちに囲まれたとき「住民の間で分断も起きていたようですが」と聞かれたので「それは仕込みでしょ」と答えておいた。絵にはならないのはわかっている。
(2024.7.17「越路」40号、たらたらと読み切り180)