目黒区虐待死事件の真相

目黒区で3月、5歳の女児が虐待によって亡くなったことが世間を騒がせ、児童相談所の介入強化や、里親・特別養子縁組制度が議論されているという。この「子殺し」事件は「両親」によるものとされているが、実際は母親とその再婚相手によるものだ。父親は別にいて、殺された結愛さんは「前のパパが良かった」と書き残している。つまり自分の父を「前のパパ」としか呼べなかったのだ。

子殺しに歯止めがかからないまでにこの「家族」が孤立したのは、戸籍制度に厳しく限定された家族関係の中でしか当事者たちが振る舞えなかったからだ。家への所属を明確にし(両属を許さず)、親子関係を断つために単独親権制度が機能し、母による代諾養子縁組で再婚相手は「父」となった。「個人の尊厳と両性の平等」はどこふく風、同姓の父母のもとにいることこそが「子どもの福祉」だったのだ。

娘を同じく再婚相手の養子に入れられ、「パパが二人いて困る」とぼやく娘にぼくは、「充はパパで、〇〇さんは新しいパパ」と説明した。(宗像 充  第14期「『反改憲』運動通信」No.2 、2018.7.30)

親子を引き離し、関係をこじれさせることで儲ける“離婚ビジネス”の実態

2018.07.21

「親から子どもを引き離したほうが弁護士はカネになります」  

そう断言するのは「男の離婚相談」を掲げる五領田有信弁護士。受け持った事件の中で特に理不尽に感じるのは、妻が浮気して出ていった場合の妻側弁護士の対応だという。この場合、妻のほうに原因があるので、夫が拒否すれば普通は離婚できない。

「しかし『子どもの養育をともに担えるなら』と、妻に愛想をつかした夫も離婚に同意しようとします。その場合、養育を等分に分け合うなら養育費は当然発生しません」(五領田弁護士)

弁護士は、離婚時の養育費算定が多いほど利益を得られる

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 政府は現在、日本以外では朝鮮(いわゆる「北朝鮮」)やイスラム諸国、アフリカ諸国に残存する単独親権制度を転換。離婚後も両親が養育にかかわる共同親権制度に向けて、民法改正の検討を始めた。共同親権の国では珍しくなく、単独親権の日本でも制度上は否定されているわけではない。しかし、子どもが手元にいる妻側の弁護士は「そんなことは聞いたことがない」と強く出る。  そうなると、夫の側は子どもとの絆が断たれることを恐れて親権を手放さず、離婚に同意しない。 「関係を壊した妻側が、婚姻費用を請求してくる。離婚しないならカネを払え……と。妻側の弁護士はまるで暴力団です」(同)  さらに五領田さんが疑問視するのは、法律サービスを身近なものにするために政府が設けた日本司法支援センター(「法テラス」)の成功報酬基準だ。

 離婚時に起こした養育費請求調停で、夫から毎月10万円の養育費を受け取る約束ができたとする。法テラスの算定基準では養育費の2年分が「受けた利益」として報酬算定される。たとえば月額養育費が10万円であれば、「10万円×24か月=240万円の10%+税」が報酬になる。

「子どものためのお金なのに、弁護士がやっていることはピンハネ。月々10万円をとれるクライアントを10人見つければ、月10万円が固定収入になる。顧問契約の2件分です。国が作った機関が、養育費から報酬を得られるようにするなんて、離婚を奨励しているようなものです」

弁護士が「事件を作っている」という批判も

 法テラスを利用すると、30分の相談が3回まで無料だ。一方、弁護士は1回の相談につき5000円を法テラスから受け取る。相談者が法テラスの弁護士に依頼すると事件の種類に応じて決まった額の着手金が弁護士に支払われ、依頼者は分割で法テラスに償還する。中でも扶養料や慰謝料の請求は成功報酬の対象になる。  母親が主婦のまま子連れで別居して、生活保護を受けていれば法テラスへの支払いも免除される。「クライアントは金銭負担を感じることなく、弁護士をつけて調停・裁判を起こせる」と解説するのは、親子関係回復のための面会交流事件を多く手がける古賀礼子弁護士だ。  

例えば生活保護を15万円受けている母子家庭で、婚姻費用を請求して月々10万円を受け取ることができたとする。「実際は回収した婚姻費用は収入に認定され、生活保護費からの国庫への返還になるので、母親が得る生活費は変わりません」(古賀弁護士)。  

しかし父親からの婚姻費用の支払い先は母親側の弁護士の口座が指定され、そこで1万円が差し引かれ。残りの9万円分が生活保護費から返還されることになる。 「父親からしてみれば婚姻費用を支払っているのに、子どもには会えず、妻も子どもも全然生活水準が上がらないということになります」(同)  

それなのに、なぜ婚姻費用を申し立てるのだろうか。 「夫の側は、妻の扶養分を減額するために早く離婚しようと考える場合があるからです。本来婚姻費用の分担は、婚姻した夫婦がお互い協力しあうことが前提の制度なのに、離婚を促すために使われているのが現状です」(同)  弁護士があえて「事件」を作り出し、売上を得る仕組みを「離婚ビジネス」と酷評するのは笹木孝一さん(仮名、50歳)。妻側の弁護士から、婚姻費用の支払い先を弁護士の口座に指定された。  

妻側の弁護士は家事事件について「国内トップレベル」を標榜する弁護士だった。笹木さんの場合、別居時に妻が5歳の息子名義の口座を持っていったので、婚姻費用はその口座に支払っていたのだ。  

笹木さん夫婦はもともと共働きで、生活に必要な諸経費は笹木さんが支払い、笹木さんの預金に余裕ができたら妻の口座に移動していた。摂食障害のある妻のために、食事も笹木さんが作っていたという。  

妻側に経済的な不満があるようには思えないが、「妻は精神的に不安定で離婚を口走り、子どもにも暴力を振るいました」という。困った笹木さんは円満調停を家庭裁判所に申し立てた。「有利な証拠を得るためか、妻はリビングに録音機を置きました」(笹木さん)。

子どもに会うために、毎回1万5000円を公益法人に払う

父と娘

 2016年のある日、保育園に子どもを送り届けた後、妻と子どもがそのまま行方不明になった。すぐに妻側の代理人を名乗る弁護士から「妻子や親族に連絡を取ろうとするとあなたが不利になる」と連絡が入った。  

その後家庭裁判所で調停になり、担当の女性裁判官は「裁判所が関与すべきものではない」と事件性を否定。隔週で6時間という父子交流を取り決めた。ところが高裁では月に1回3時間の交流に短縮され、どちらかが望めば父子交流に付き添いを付けることが可能になった。「つきそいを望むのは母親しかいない。監視ですよね」と笹木さんが嘆息する。  

母親側が指定してきたのは、面会交流の支援を手がける家庭問題情報センター(FPIC=エフピック)だ。「FPICのスタッフには『私たちのところを利用するようにという審判書になったわね』と笑われました」。FPICは月に1回3時間までしか面会交流の支援をしない。 「妻側はエフピック以外では会わせないと言ってきましたから、選択の余地はありません。にもかかわらず、当初1回1万5000円の利用料は、相手方弁護士の主張で全額を私が払わされました」(笹木さん)

「子どもに会うのにその都度カネを払わないと会えないなんて屈辱そのもの」と憤るのは先の五領田弁護士。「司法によって利用が指示されるなら、それは裁判所や行政の仕事。なぜ公益社団法人がそれを肩代わりしているんでしょうか」  FPICは家庭裁判所の調査官OBによる公益社団法人。2015年から3年間、養育費相談支援事業などに1億5400万円を国から得ている。「家庭裁判所職員の再雇用先確保のためのカモにされているとしか思えません」と笹木さんも指摘する。  

笹木さんとの交流場所はFPICが児童館を指定した。理由について笹木さんが聞くと、「子どもの安全のためという。これは私が危険だということですから、FPICに抗議したのです。そうすると『信頼関係がない』と援助を引きあげられました」。現在、笹木さんは息子さんに会えていない。離婚も裁判で決着した。 「営利目的で子どもを連れ去り、親同士の関係を壊して親子を引き離し、子どもの貧困を招く。そんな奴らが裁判所を闊歩しているなんて」  

共同親権は、離婚ビジネスが生み出す子どもの貧困を根絶できるだろうか。 <取材・文/宗像充>


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世界では大規模農業見直しの潮流が。安倍政権の「種子法廃止」は世界の趨勢にも逆行!?

これまで日本の多様な品種を守ってきた「種子法」が廃止され、日本の農業は大きな転換点に差しかかっている。そんななか、「多様な品種・種子を守る」ためのさまざまな動きが起きている。

注目されつつある「アグリエコロジー」

 現在、南米各国やアフリカでは、農薬・化学肥料を用いて工業化された農業に対し、小規模・家族経営の農家による生態系の力を活用した農業や食のあり方が「アグロエコロジー」として力を持ちつつある。

「例えばブラジルでは、地域の食が壊されて安い加工食品による糖尿病の急増が大きな問題になっており、農薬も化学肥料も使わない有機農業が注目されています」と解説してくれるのは「日本の種子を守る会」事務局アドバイザーの印鑰智哉さんだ。 「こういった動きは急激に世界に広がりつつあり、日本の有機農業の割合はまだ1%ほどですが、7%のドイツは数年のうちに3倍にする計画ですし、アメリカでも毎年10%以上成長しています。有機農業の割合の高いキューバやロシアは、有機家庭菜園も盛んです」  

一方、綿生産がモンサントの遺伝子組み換え種子に席巻されたインドでは、22州に124以上のシードバンクが作られた。実のところ、遺伝子組み換え種子の特許を認めている国は少数だ。’80年に連邦最高裁が種の特許を認めたアメリカでは、「この20年で慢性疾患が急増し、平均寿命の伸びが止まる傾向」だという。 「タンパク質が低下したアメリカの大豆を、中国は輸入しません。モンサントは除草剤の使いすぎで耐性のある雑草が出てきてしまい、別の農薬を混ぜています。世界最大の育種企業であるモンサントを支えた柱は今、折れそうです」  

種子法を廃止する日本の動きは、工業的な農業が見直されつつある世界の趨勢に逆行している愚行なのだ。 <取材・文/宗像充 横田一> ― いよいよ[日本の種]がヤバい! ―

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5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?

日本の多様な銘柄米は種子法に守られてきた。 masa / PIXTA(ピクスタ) これまで日本の多様な品種を守ってきた「種子法」が廃止され、日本の農業は大きな転換点に差しかかっている。そんななか、「多様な品種・種子を守る」ためのさまざまな動きが起きている。

4月に種子法が廃止。その後は……?

「このままでは、日本の農産物の多様な品種が店先から消える」  こう警鐘を鳴らすのは、元農林水産大臣の山田正彦さん。山田さんは昨年から種子法廃止の動きに対して「日本の種子を守る会」を結成、廃止の影響を各地で説いてきた。

山田正彦さん

6月18日、種子法復活法案に関する院内集会で話す山田正彦さん。 

しかし、今年4月に種子法は廃止。その結果、「これまで米、大豆、麦類の品種を、各都道府県が責任を持って種子を開発・増殖してきました。それが今後は義務ではなくなるのです。つまり、種子を守るための予算がつかなくなる」というのだ。 「一つの品種が開発されるまでには10年、増殖には4年かかる。各地域の銘柄米を手ごろな値段で口にできたのは、膨大な歳月と労力をかけ、その予算を税金で賄ってきたからです」(山田さん)  

山田さんはさらに「日本の多様な品種を大企業の寡占から守っていかなければならない」と危機感を強める。日本ではすでに「みつひかり」(三井化学)、「つくばSD」(住友化学)、「とねのめぐみ」(日本モンサント)などの籾米が流通。主に多収量の業務用米として用いられている。

「農業競争力の強化が国の方針。生産規模の小さい銘柄は集約されるので、国内の品種はいずれこういった大企業の品種に置き換わっていく。従来の品種を作り続けたいと思っても、各都道府県が生産をやめれば種子が手に入らない。やがて外国の多国籍企業の種子を一般農家は買わざるをえなくなっていく」(山田さん)

院内集会

種子法復活法案に関する院内集会で農水省知的財産課の担当者は、新規開発種の自家採種を今後原則禁止していく方針を説明

種子法復活の動きも

種苗店やホームセンターに並ぶ野菜の種

種苗店やホームセンターに並ぶ野菜の種はほぼ外国産で「一代交配(F1)種」が大半。種をとってまいても前年のようには実らない しかも、種子ビジネスを行う企業としては、莫大な開発費を回収する必要がある。そのため、「F1種」という一世代に限って作物ができる品種を販売する。自家採取できないので、農家は毎年企業から種を買わなければならない。

「種子ビジネスに乗り出してきているのは化学企業が中心。農薬と化学肥料もセットで売り、契約によって作り方も指定されます」(同)  

そうなると価格は企業が決めることになる。現在、民間の種子の値段は、公共の品種の種子の4~10倍。種子法によって守られてきた公共の品種がなくなれば、農産物の値段が上がることは必至だ。これに対して、国会でも種子法廃止に抵抗する動きが出ている。5月19日に野党6会派が提出した種子法復活法案は6月7日、衆議院農林水産委員会で審議され継続審議となった。 「『業務用の品種の作り手がいなくなるから民間を応援しよう』と政府与党は説明してきました。だからといって、各地が独自で種を作ってきた体制をなくすことはなかった」と、後藤祐一衆議院議員(国民民主党)は語る。

「米の民間品種のシェアは、まだ0.3%にすぎない。移行の体制も整っていないのに、大阪府、奈良県、和歌山県は今年度から種子の維持についての認証制度を取りやめてしまいました。弊害が明らかになる前に何とかしなければ」と後藤議員は法案の復活に意欲を見せている。

条例を作り県レベルで対抗

 一方、県レベルで対抗しようという動きも出てきた。新潟県、兵庫県、埼玉県は条例を制定し、県の公的機関が種子法廃止前と同じように種子の生産・供給が可能な体制を続けられるようにしたのだ。新潟県長岡市内にある農業総合研究所作物研究センターの担当者はこう語る。

「こちらで作っている種子は、コシヒカリや新之助など『推奨品種』14品種、それに準じる新潟次郎など『種子対策品目』9品目です。国の種子法がなくなって県条例となったので事務的手続きなどの変更はありますが、種子を生産・供給する基本的な業務自体に変わりはありません。これまで通りの多種多様な品種の生産・供給ができる体制は維持されました」  

これら3県の条例制定は、日本の農業を守る貴重な取り組みとして全国に広がる可能性がありそうだ。

「種子法廃止の背景にあるのはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)です。日本の多様な品種を守ってきた種子法は、TPPにおいては自由な競争を阻害する『非関税障壁』とみなされてしまうのです」と山田さんは解説する。そのうえ、「TPPでは『遺伝子組み換え食品の輸入も促進する』となっている」というのだ。  

弁護士でもある山田さんは現在、種子法に焦点を絞りTPP交渉の差し止め・違憲訴訟の提訴を準備中。すでに原告は700人を数え、今年8月には提訴の予定だという。

今のうちに、自家採取可能な種子を保存

種センター

臼井さんの始めたシードバンク「種センター」では、カボチャや豆、トマトなど、棚ごとに在来種の野菜の種が保管されている 種子の輸入が途絶えれば「日本ではほとんど野菜が作れないのが現状です」と印鑰智哉さん(「日本の種子を守る会」事務局アドバイザー)は危惧する。農水省は「知的財産権の保護」という点から、これまで原則OKだった自家採種を原則禁止に転換する方針だ。つまり、そうした種子を自家採種したり共有したりすれば、犯罪となり重い罰則が科せられる(家庭菜園は除く)。

「種が落ちて芽が出て、実がなるというのが自然界です。自家採種禁止なんて常識では考えられない」と首を傾げるのは、長野県安曇野市で自然農の菜園を持つゲストハウスを経営する臼井健二さん。大企業の種に頼らない農業を行うため、’12年に在来種の種を保全するシードバンク「種センター」を開設した。 「大企業の品種が席巻して多様な品種が滅ぼされる前に、自家採取可能な品種を保存しておかなければ」と臼井さんは語る。現在、200種以上の在来種の種子が保存されている。

「企業の種子の知的所有権を守るのであれば、伝統的な在来品種も守る法制度も必要だ」と、印鑰さんは強調する。「お米に関しても、まだ公共品種が99%を占めている今ならば、まだ十分に守ることができます」  一度失われた種子は、二度と戻ってはこない。これは、日本人の食にとって大きな転換点といえるのではないだろうか。

<取材・文・撮影/宗像充 横田一> ― いよいよ[日本の種]がヤバい! ―

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リニア建設の最前線、長野県大鹿村でJR計画の右往左往

リニアのトンネル掘削地で1年ほどの間に4回の落石・土砂崩れ

土砂崩れ

リニア関連工事の影響で道路が崩壊「道路が土砂崩れで不通になって配達物が届けられません」  

昨年の12月15日朝、長野県大鹿村に住む記者のもとに宅配便の会社から電話が入った。村に至る道路の建設途中のトンネル出口で崩落があったという。大鹿村はJR東海が進めているリニア新幹線工事の南アルプストンネル(25km)の長野県側起点。崩落現場は、工事車両通行のための拡幅工事で掘っていたトンネルの一つだ。

中央構造線はじめいくつもの断層・活断層をリニア路線が横断する南アルプストンネルでは、難工事が予想されていた。そのため国土交通省による2014年の認可後、他地域に先行して工事が始まった。長野県側では2016年11月に起工式が開かれた。  

大鹿村に至るには川沿いの曲がりくねった道を通るしかなく、大型の工事車両や作業員を乗せたバスも村外から南アルプストンネル掘削地(完成後は「非常口」)に向かう。その現場までの道路が1年ほどの間に4度落石・土砂崩れで崩壊し、毎回不通になっているのだ。 「昨年3月にも、隣接する個所が崩れた。おかげで峠越えの狭い道を大型の工事車両とすれ違いながら街まで行くことになってしまいました」  

大鹿村内で旅館業を営み、昨年まで村のリニア対策委員会での議論に加わっていた前島久美さんが顔を曇らせる。

「1961年に伊那谷全体が水に浸かった豪雨災害(三六災害)では、村中心部の背面の山が崩壊して42人が亡くなりました。大鹿村はもともと、地滑りや土砂崩れの危険がある場所が多いんです」(前島さん)  

JR東海は昨年12月15日、今回の事故が拡幅工事のトンネル発破が原因であることを認めた。そして現場は12月29日に「仮復旧」したとのことだが、全面復旧への目途など詳細は明らかにされていない。

「仮置き場」に置かれた残土の行き場が決まらない

満杯の残土

仮置き場に満杯となっている残土「それにトンネルを掘ったとしても、土はいったいどこに持っていくのでしょうか」(同)  

村内からは300万平方メートル(東京ドーム2.4個分)の残土が発生する見込みだ。しかし予定されている4か所の非常口のうち、1か所に隣接する仮残土置き場はすでに満杯になっている。  

村内に残土置き場候補地は数か所あるが、いずれも小規模のもの。また、河川周辺にあるので豪雨時に流出すれば災害の種になる。したがって、村外に残土置き場が確保されれば撤去される「仮置き場」が大部分だ。  

事情はほかの自治体でも同じだ。長野県内でJRが示した大鹿村外の残土置き場候補地は、三六災害の記憶の残る下流域の住民の反対にあい、1か所が撤回、もう1か所は測量したものの埋め立てを決定できないでいる。  

さらにもう1か所は、受け入れを決めた地権者である地元森林組合の合意手続きが不十分だったことが県に指摘され、宙に浮いている。県内でほかに残土置き場が決まった場所はなく、傍目にもJRの右往左往ぶりが目につく。

残土の搬出路をめぐって住民の不安が高まる

瀧の下にリニア

吉川栄治著『宮本武蔵』の舞台になった「男滝女滝」の地下にもリニアが通り、地下水脈の変化が懸念されている 残土置き場が仮に確保されたとしても、その搬出路をめぐって再び問題が起きる。前島さんの実家の土地も、工事車両が学校や保育園のある村の中心部を避けて通るため、JRが線を引いたう回路にかかっている。

「JR東海と工事を請け負った鹿島建設、それに村役場の人が土地利用のため6人もお願いにやってきました。こちらとしては、工事が始まった影響で今年の売り上げは前年比3割減です。自然環境を売りにした旅館業なので、環境への影響を抑えるためにきちんと話し合わないといけない。それなのに、彼らが言うのは工事のスケジュールについてだけです」(同)  

村内では環境アセスの手続きの段階で、JR東海が一日最大1736台の工事車両が通ることを示して住民の不安が高まった経過がある。他地区の搬出路の確保もこれからだ。 「それに今回の談合疑惑。なぜそんな会社に協力しないといけないのかと思ってしまいます」(同)  

仮残土置き場が満杯になっている非常口の1か所は、7月から掘削が始まった。その場所は地滑り地帯の末端に位置し、土砂流出防備保安林に指定されている。その保安林解除手続きが約1年続き、林野庁が’17年2月半ばに解除の予定を告示した後、森林法に基づく異議意見書が多数の住民から出された。その審査のため時間がさらにかかった。現在もう1か所の非常口でも保安林解除手続きが進んでいる。

「JRが当初表明していた工事着工は2015年秋。それが『冬の間』になり、『夏』になりました。起工式をしたにもかかわらず、実際に掘り始めたのは8か月後です。スケジュールはもうかなり狂っています」(同)  

工事最前線の村の実情を見る限り、JRが予定している「2027年の開業」はいつ赤信号になってもおかしくない。 <取材・文・撮影/宗像充>


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