悪政のふるさと 大鹿村(「府中萬歩記」第69号)

大鹿村は南アルプスの麓の長野県側にある人口1000人ほどの小さな村だ。移住ブーム以前から移住者たちが住み着いたりしてきたので、知っている人には知られた村だったようだ。それがそこそこ全国的な知名度を得つつあるのは、ここがリニア中央新幹線の南アルプストンネルの長野県側の起点になっているからだ。

ぼくは、この村に来て3年になる。連れ合いの前島久美は、ずっと以前からリニア新幹線反対の活動を村内で続けている。その中でぼくは『南アルプスの未来にリニアはいらない』という本を昨年出版し、村の郷土民俗資料館「ろくべん館」の販売コーナーに置かせてもらっていた。村の歴史を書いた作家の本や手ぬぐいなどもいっしょに置いていた。

10月9日、用事があって久美さんがろくべん館に立ち寄ると、職員から売上とともにこの本を返還された。職員は村にあるJRの事務所の分室長がやってきて、この本を指して撤去を促したという。館の職員が疑問を口にすると、村の教育長が分室長とやってきて状況を見聞し、翌日販売コーナーごと教育長から撤去指示が出た。

すぐに島﨑英三教育長に直接電話して事情を聞くと、職員の委託契約の範囲外だというのが主張だ。一方で、販売コーナーの設置状況については、村のリニア対策室の岩間洋係長から指摘を受けたという。翌日、村のリニア対策室に電話をすると、岩間さんは自分が気づいてそもそも販売できるものなのかと島﨑教育長に連絡したという。JRの分室に行くと太田垣宏司室長が、自分が指摘したと肯定したが、撤去は村の判断という。

このJRによる自治介入と言論弾圧事件があったのは6月13日のこと。当事者のぼくに偶然連絡が入った10月になるまで、ぼくは教育委員会のある公民館に度々出入りしているし、教育長とも顔を合わせているのに、何も言わなかった。

大鹿村では移住者が目を疑うようなことが平気で起きる。

選挙になると候補者は堂々と個別訪問している。みんな知っていて選挙管理委員会はルール違反を注意しない。役所に行ってやり方の違いから理由を聞くと「この村ではこうなっている」と説明を拒否する。印刷機の使用をある日取りやめ、一方で一部の人には利用を継続しているので基準を求めると、「役場の人間が決める。どうしてここで印刷したいの。よそで印刷すればいい」と暴言を吐いて、差別と公共物の私物化を肯定する(長尾勝副村長)。やってあげているんだというお上意識で、住民との問題解決の仕方を知らないから、最近ではは3度も村は訴えられ、そのうち2度は負けている。移住者で役場の対応に不満を持って引っ越していった人も一人ならず聞く。それだけ生活の上で役場の占める割合が大きいということだろうが、これでは暗黒政治だ。

村の愚痴を言い始めたらきりはないが、こういった事態は安倍政権のもとでの忖度政治の中でじわじわと広がり始めている中で起きた一コマだ。反撃するにも手が足りない。田舎はいいよ。空気はうまいし、悪政とフェイスツーフェイスで闘えるよ。あと、ぼくの本も読んでね。