リニア中央アルプストンネル、はじまって200mで崩落

「もともとここには阿寺断層帯が走っている。条件が悪い場所だとはわかっていた。慎重にやった結果がこれ。環境影響評価書やJR東海の説明では大丈夫と言われてきたのに、実際にはそうはなっていない」

阿寺断層帯の走る方向を指す坂本さん

 長野県南木曽町の町議会議員坂本満さんは、立ち入り禁止のロープが張られた竹やぶを見て呆れ顔だ。

4月8日、JR東海が建設中のリニア中央新幹線の建設現場の一つ、岐阜県中津川市山口でのトンネル掘削中に土砂崩落が生じた。現場は木曽川沿いの中津川市から天竜川沿いの長野県伊那谷へと至る中央アルプストンネル23・3kmの岐阜県側の工事個所だ。

山口工区の掘削現場

坂本さんの住む南木曽町も、ここから延びる中央アルプストンネルが通過し、町内でも掘削工事が今後始まる予定だ。山口地区からは昨年11月から先行して掘削が始まった。完成すればリニア新幹線が通る本坑へと至る斜坑の掘削中に、入口から200m付近で崩落が起きた。

 この部分の建設をJR東海から受託亥する鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)によれば、8日午前7時ごろに作業員が直径8m、深さ5mほどの陥没を確認。4日に斜坑内で小崩落が発生したため、斜坑内の復旧作業中だったとしている。

 翌日の9日に坂本さんとともに現場に行くと、崩落個所のある竹やぶは、人家や田んぼが散在する道路脇にある。

左の竹やぶ内で崩落が生じた

崩落周辺では数人の作業員とミキサー車が立ち働いていた。現場の作業員の一人は、「トンネルから地上部までは20m弱。トンネル掘削では発破(火薬による爆破)も行っていた」と語った。鉄道・運輸機構は、「工事を止めて原因を調査中であり、復旧計画を検討中。崩落個所にはモルタルの打設工事を行っている」と現状を説明した。

「本坑トンネルはあの家の真下を通ります」

道を挟んで崩落個所のある竹やぶと反対側の人家を坂本さんが指した。今後も同様の事態が起きれば、次は竹やぶですまないかもしれない。近くを流れる前野沢では、作業員の一人が水位をじっと見守っていた。鉄道・運輸機構によれば、「水枯れなど周囲への影響は今のところ生じていない」という。

2027年の東京(品川)―名古屋間の開業を目指すリニア新幹線の路線286kmのうち八割は地下を通る。各地で関連工事も含めてトンネル工事が始まっている。しかし、すでに長野県では、大量の工事車両の通行のための道路改修工事のトンネル掘削中に、地表部で2017年12月、発破の振動によって崩落が生じた。また、名古屋市の名城非常口では、掘削作業中に地下水がわき出たため、昨年12月から工事が中断。作業は今秋に再開予定だ。

情報の公開の仕方も不透明だ。大鹿村では崩落で道路が通行止めになり、住民が2週間不便を強いられた。この事故原因について、筆者が長野県に情報公開請求すると、事前にトンネル内部で施工業者がクラックを認めていながら、工事の納期が迫った中、まさに崩落した個所の真下で火薬の量を倍にしていたことがわかった。このことを指摘する施工業者のレポートを、長野県は専門家による委員会で「特殊な地盤で予測が難しかった」とするJR東海の検討結果が了承を得るまで公表しなかった。

名古屋駅の非常口の地下水湧出がニュースになったのは4か月後だ。今回の崩落でも、8日に公表されるまで、4日の崩落発生から4日経っている。

「施工業者からすれば掘削の初期段階で崩落が起きたからまだよかったかもしれません。今後の工事はより慎重にはなるでしょう。でもこれじゃ泥縄。現場はたいへんでしょう」

建設現場での地質調査の仕事の経験もある坂本さんが首を振る。そして付け加えた。

「リニアによる地域活性化が語られがちですが、自然に対する謙虚さが本来建設工事には必要なのに、それがリニアには決定的に足りていない」

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