カワウソ目撃@茨木市(大阪府)

 6月13日に新しいカワウソ目撃情報がきた。「全く誰にも信じて貰えないと思います(自分でも信じられないのです)が……」という書き出しで始まるメールは6月12日と前日のもので、場所は大阪府茨木市。大阪府からの近年の情報は聞いたことがなかった。

メールでの目撃時の状況も詳しく、早速目撃者の嶋田さんに電話をした。

「コツメカワウソよりは小さい。ヌートリアとは全然違う。ハクビシンとも顔は全然違う。娘がカワウソ好きでそのぬいぐるみの色と同じ」

証言も詳細なので、お願いして現場検証をすることにした。

6月25日、13時半に茨木駅で合流し、嶋田さんのお連れ合いと三人で嶋田さんの車で山の手に向かった。茨木市の山間部は近年開発が進んで、ここ10年ほど山を切り開いて企業の倉庫・集積地などがそこここに出現しているそうだ。また北のほうには新名神が数年前から開通している。そのあおりなのか、ここ最近、シカやクマ、イノシシなどが人家の近くに出没することもあるという。

後ろの斜面で見かけた

真新しい道路を登って山間部の倉庫群を過ぎ、脇にため池などが見える坂を下りると田んぼが広がる里が開けてくる。場所は府道110号線が通る佐保地区。阪急バスのバス停「馬場」の西側斜面。近くに大規模な園芸センターがある。午後の時間で車の通行も多い。

嶋田さんは仕事を終え、日付が12日に変わった深夜、12時12分に彩都西の駅で降り、お連れ合いの運転で帰宅する途中だった。雨上がりで運転席の妻が「今日は動物が出てくるかもしれない」とのろのろ運転で山の手に向かって運転していると、10mと離れていない道路の左の斜面に黒い動物が現れて通り過ぎた。タヌキも見たことがあったから妻が「ほら動物おった」と口にした。12時20分ころのことだ。

「2m先の近さで見ました。目線よりちょっと上の斜面を、こっちにお尻を向けて登っているような感じで、顔だけこっちに向けていた。口と目の付近から下、胸元にかけて白かった。皮膚感は、ヌメっとしているというかつるっとしているというか、キツネやタヌキ、イタチなどの普通の陸上動物とは違い、短毛でアシカかオットセイに近い質感に見えました。耳ですか。見えなかったなあ。尻尾はカワウソの形状です。お尻はむっちりしていて、下半身が膨らんでいる。色は薄茶色か灰色で真っ黒ではない。首が長かったですね。ヌーっと首が伸びている先にちょこんと顔がのっかっている。丸っこくて漫画で出てくるかわいいワンちゃんみたいだけど、もうちょっと野性味があって精悍な感じがする。コツメに比べると顔が大きめに見えました」

 嶋田さんがその様子を再現してくれた。足は草に隠れて見えず、尻尾は胴からすっと延びている感じだ。

「背中の当たりが黒々していて、肩と背中から腰の手前まで黒かった。そのほかの部分が薄茶色、薄灰色という感じです。見た瞬間カワウソの色だと思いました」(嶋田さん)

 嶋田さんは、カワウソが絶滅しているというのは知っていた。対馬のカワウソなど、カワウソに関するニュースは気に留めていた。対して嶋田さんのお連れ合いはカワウソがいないというのを知らなかった。それでも「カワウソを見た」という結論は、二人とも変わらなかった。二人とも動物好きなので、動物園にも度々行っていて、コツメカワウソなら何度も見ていた。でも、大きさはコツメよりも大きくて、両手を広げて頭からお尻までの大きさを嶋田さんが示してくれた。尻尾までも含めると1mほどになり、ニホンカワウソやユーラシアカワウソのサイズ感に一致する。イタチやテンとは大きさが全然違う。

バス停の山の手に向けて歩くと、目撃時に斜面を覆っていた草は刈られて、のり面は田んぼの水がにじみ出て流れていた。農地整理で整然と区画された田んぼが上のほうに続いている。道路を渡ると水路が伸びていてその先に川が流れているのが見えたので行ってみると、上流で母子が川遊びしていた。女の子がカニを見せてくれた。カニはたくさんいるようだ。小魚も泳いでいる。護岸も石垣で組まれたままの古い状態で、自然状況はよく見えた。この川は佐保川で下流で安威川になり、淀川に注ぐ。

園芸施設で魚を飼っていると嶋田さんのお連れ合いが言うので見に行くと、小さめのコイが泳いでいた。「前はもっと大き目の魚がいた気がする」とお連れ合いは口にするけど、店の人は動物が獲った様子はないという。

いるはずがないと思った嶋田さんは、保健所などに電話して逃げたペットのカワウソの情報を聞いたものの否定されている。嶋田さんたちの車で佐保川の上流まで行ってみた。嶋田さんたちも、この川をじっくり観察したことはないという。しかし佐保川の上流は、流れは細くても途中渓谷になり、さらに上流に行くと美しい棚田風景の農村地帯になった。福祉施設があり、蛍の里としても知られているという。

大阪府ではさほど離れていない高槻市でヌートリアがいることが知られている。ぼくも琵琶湖での目撃情報を得て電話をしてヌートリアだったと聞いたことはある。ただ、二人とも全身を見ているので形状でヌートリアとは区別できたようだ。嶋田さんたちは近くに同様の自然状況が残る川は思い当たらないという。でも安威川を少し見た限りでは、アシ帯も残ってコンクリート三面張りというわけでもなさそうだった。それに、都会でも魚がいればカワウソはいることは韓国では言えた。

嶋田さんたちも、自分たちの目撃情報がカワウソの捜索に役に立てばということで調査に協力してくれた。引き続きこの地域の過去の生息情報などについて調べていきたい。(2022.6.28)