ぼくは「市民参加」という言葉があんまり好きじゃない。政治はもともと市民がするものだと思うようになったからだ。ついでに言うと、もともと市街地出身者ではなかったので「市民」という言葉もいまいちピンと来ない。英語でいうPEOPLEに当たる便利な言葉が日本には根付いていないと言うけれど、それは対権力との関係で民衆が適切に位置づけられていなかったことにあるのではないかと考えたりする。
だいたいが、意思を取りまとめたり、利害を調整したり、理念を実現したり、というのが政治だとするならば、別に日米安保は高度に政治的だとした統治行為論も、夫婦喧嘩を調停するのも、どっちがより政治的かなんて議論してもはじまらない。そんなこんなを考えるようになったのは、国立に住んでいくつかの運動にかかわるようになってからだけれど、意思はあってもやり方を知らない、やり方はなんとなくわかるけどビビってやらない、というレベルでやる前からあきらめられてきたことは思ったよりも多い。その末に、「そういうやり方は」ときちんと発言しようとする人の足を引っ張ることになれば、発言するのはますます特殊な人と捉えられてしまう。
なので、並木道の会で、表題のシリーズをすることにしました。毎回持ち回りでやります。
第一回 記者会見の仕方
★記者クラブとは
テレビを見ていると、記者会見は政府の高官や芸能人がやるものだというイメージがあるし、テレビや新聞に出る人はそれなりに話題性がある人や出来事だと思いがちだ。でも、話題というのはある程度意図的に作っていくものだという意識がないと、継続的な政治運動にはならない。それに話題を求める記者のほうも、常に話題になりそうな情報を求めているし、特に地方の支局あたりだと、そういった宣伝物や売り込みのチラシやファックスは毎日のように支局や記者クラブに届いている。
新しい問題を広めたり、イベントに多くの人に参加を呼びかけたりする場合、その情報がマスコミに流れる影響も反響も大きい。もちろん、企画がしっかりしている、という前提あってこそだけれど、マスコミの活用ができるに越したことはない。
国立市周辺の場合、立川市の市役所内に記者クラブがある。記者クラブというのは、加盟新聞社やテレビ局に定期的に役所の情報を流すために、役所が設ける特権クラブのようなもので、ぼくのようなフリーランスは加盟できない。マスコミというのは「第四の権力」と言われたりするけれど、実際には半官半民だ。行政からタダで情報を仕入れて、それを売る実入りのいい商売なので、実際には本気で権力を監視しようと思っているわけでもなさそうに思える。海外にはない記者クラブもそういう馴れ合いの中から生まれた制度なので、批判にもさらされるものの、実際問題そういうものとして捉えればぼくたちにとっても、一括して情報発信することができるという点で、便利なところだ。
ただし、そういう事情なので、住民からの情報については行政情報よりは軽視する傾向があるのではないかと思う場面は度々ある。これは左派系が住民の話を聞いて、右派系はそうじゃない、というような単純なことではなくて、むしろ、朝日の記者はお役所的な雰囲気を持つ人が少なくないし(身なりもいい)、読売の記者に地方の情報を積極的に取り上げようとする人も少なくない(実際地方面は読売が一番充実している)。
★どこの記者クラブに流すか
地域でのイベントの場合は立川の記者クラブ。裁判の提訴や判決の場合は霞が関の裁判所の司法記者クラブ(地方の場合は県警に司法関係の記者クラブがある)。都政や国政に関わることなら、都庁(県庁)や霞が関の関係官庁にそれぞれ記者クラブがある。
ただ、中央官庁の記者クラブの場合は、市民団体からの記者会見は受け付けなかったり(外務省とか)、リリースするのに申請書を書かせたりするところもある。また、幹事社が情報の重要度を事前審査して、断ったり記者会見をしないように勧めることもある。記者クラブは官庁にしかない。税金を使って官庁の一角を占める記者クラブの利用者が、そのような態度を納税者に対して示すのは本来おかしい。しかし、たしかに記者会見をしたからといって記事にするかどうかは新聞社・局次第なので、その辺は、費用対効果をこちらも考えてどうするか判断することになる。
★リリース文
いつもイベントの案内で作るようなイベント名、日時場所時間内容等が明記されたチラシと、「別紙のようにイベントを開催しますので、取材の上、貴紙・貴局で取り上げていただけますか」という連絡先の入った頭書きがあれば十分だと思う。「日本で(この地域で)はじめてのイベント」というような情報の希少性があれば、記者の関心は高まるかもしれない。要は記者が(世の中の人も)おもしろいと思うかどうかだ。
★ファックス送信・チラシ配布
彼らに情報を流す場合、一番簡単なのが記者クラブに電話して幹事社を教えてもらって、その幹事社の記者と話してファックスの掲示をお願いすることだ。立川の記者クラブの場合、記者はいなくても担当の職員はいるので、幹事社に連絡をつけることができる(他の記者クラブでも誰かが出る)。幹事社というのは、一カ月ごとに各社の持ち回りで担当しているもので、ぼくたちに関係のある仕事としては、外部から記者クラブへの情報を受け付けて、必要があれば、告知や記者会見などの段取りをとるということだ。
普通記者クラブには掲示板があって、立川のような小さな記者クラブの場合、記者は記者クラブに常駐していなくても、何か情報がないか出入りはしているので、来れば掲示板にも目を通したり、チラシが届いていればそれも見たりすることになる。記者が興味を持てば後日電話がかかってきたりする。
掲示では物足りないと思ったら、直接記者クラブにチラシ等の資料を人数分持ち込むことだ。加盟社の数は記者クラブに聞けば教えてくれる。行くと、担当職員や幹事社に人数分を渡して配布してくれるように頼むか、都庁の記者クラブのように、各社のポストがあって、そこに投げ込むこともある。
★各社戸別配布
直接記者に説明したいという場合は、記者会見をするか、各社の所在地を調べて、こちらから出向いて記者を呼び出して説明することになる。立川だとだいたい駅の周辺から自転車に行ける距離に各社の支局があるので、こういうことができる。各社のファックス番号を調べて(一括登録しておくと何かと便利)ファックスでリリースする。メールよりは目に留めやすいようだ。都内の大手マスコミの本社などもに同様にできるけれど、来る情報が多いからかあまり取り上げられる確率は高くない。J—WAVEの夜の番組とかは社会問題を取り上げることが少なくないし、マイテレビも地域の話題は取り上げる。週刊金曜日のイベント欄は、情報を送ればだいたい取り上げてくれる。
希少性のある情報の場合、「他の社にはまだお知らせしていません。お宅にだけ流す情報です」と言って確実に記事にしてもらうことができれば、それに越したことはない。記者の気持ちになってみれば、そういうやり方も考えられるし、記者が関心を持てば向こうから出向いてくれることもある。東京新聞の記者はフットワークの軽い人が、毎日新聞の記者は丁寧な記事を作る人が多い気がする。どういう手段をとるかは、持つ情報の性質と拡散の目的によるだろう。
一人理解してくれる記者をつかまえて、小さな情報でもマメに記事にしてもらって、コンスタントに話題にできれば、運動を広げる力になる。各社とも無視できなくなって追随するようになればしめたものだ。
★記者会見
各社が関心を持つと予想される重要な情報がある場合、記者会見をすることもできる。ぼくがやった中では、子どもに会えない親として顔出ししてやった記者会見が、同情を引いたのか各社とも記事にしてくれた。当事者が実情を訴えるというのが、記者の心を動かすという面では一番記者会見の有効性を感じるところだ。
記者会見は幹事社と日程を調整して開催日を決める。新聞社としては、午後のあまり遅くない時間までに開催すると、翌日の朝刊に間に合う、という事情があるようだ。裁判の提訴などだと、自分でやると自作自演っぽいので、弁護士や学者といった肩書のある人を同席して解説してもらうと、記者も専門家のコメントをとる手間が省けて都合がいいようだ。記者会見に限らないけれど、あんまり論点をいろいろ言うよりは、特殊な問題でも普遍性のあるところはどこなのか、意識しながら説明すると記者も記事にしやすい。離婚後に子どもに会えないのはそのための制度がないからだ、と訴えるような場合だ。
立川の記者クラブだと、ソファがあってそこで記者に対してレクチャーする(記者レク)という感じだ。あまり市民に開いていない中央官庁の記者クラブだと写真撮影がそこでできないようなところもあり、とりあえず記者と知り合いになってレクチャーをする場として捉えたほうがいい。
司法記者クラブだとテレビで見慣れた会見席がある。判決や提訴が続くと会見場が埋まっていたりするし、印象としては司法記者クラブの記者は来ている情報を流すだけの記者が多いので、外からの持ち込みには冷淡な印象を受ける。立川の支局でも映像に撮られることはあるので、誤解されないような言葉遣いはしたほうがいい。
記者クラブが借りられなければ、独自で会見場を用意することになる。その場合は、記者も独自で集める。やり方はこれまでのやり方を活用してください。(宗像 充)
(「並木道」144号、2016.2.14)